次世代型革新高出力蓄電池
「金属触媒フリーリチウム空気電池」の開発

伊藤 良一
(東北大学 原子分子材料科学高等研究機構(AIMR) 助教、現在、筑波大学 数理物質系 准教授

2015年6月13日土曜日

論文紹介:熱分解を利用した大量に作成できるグラフェン構造を持つ炭素

今回、ドイツの世界的有名なMax-Planck-Institut für Polymerforschung(マックスプランク研究所)のディレクターであるKlaus Müllen教授の元で研究を行った研究成果がアメリカ科学雑誌Journal of the American Chemical Society (JACS)に掲載されました。Muellen教授は世界トップ100の化学者に選出されているほど著名であり、グラフェン/グラファイト研究の第一人者といえるほど有名な論文をいくつも世に送り出し続けています。このたび掲載が決まったこの科学誌では世界トップ3にランクされる化学系総合雑誌であり、Muellen教授の指導の下で私が研究を行った最後の仕事(論文)となります。ドイツ留学時代では様々なことをMuellen教授から学び、そして、今に繋がっていると思うと、論文が世に出たという嬉しい反面とても寂しい気持ちです。

肝心の論文の中身ですが至ってシンプルです。グラフェン/グラファイトの構造はベンゼン環がいくつも連結している構造であることに注目すると、図1のようなベンゼン骨格を持つ分子を混ぜて加熱すればグラフェン/グラファイトが簡単にできるのではないかと考えて行われた研究です。大学1年生の化学で習う基礎知識ですが、ベンゼンは共鳴構造をいくつも取りうる形をしおり共鳴安定化しているため、その構造はエネルギー的に安定です。このため、ベンゼンをいくら加熱してもグラフェン/グラファイト構造にはなれません(正確にはなりにくい)。したがって、ベンゼンに官能基を導入して反応性を高める必要が生じました。そこで本研究はベンゼンの6本の手全てを塩素で置換し銅を反応材として加熱をすることでこの問題を克服し、大量のグラフェン/グラファイト構造の作製に成功しました。また、ベンゼンの代わりにピリジンを塩素で置換することで同様に窒素が導入されたグラフェン/グラファイト構造の作製にも成功しました。このように混ぜて加熱するだけで大量のグラフェン/グラファイト構造を持つ材料開発は商品化する際に障害となる大量合成の問題を克服できる一つの手法であるといえます。本グラフェンの構造を有する炭素は触媒や電池などエネルギー分野で使うことが可能です。


論文は・・・残念ながら有料公開です。

タイトル
Tuning the Magnetic Properties of Carbon by Nitrogen Doping of Its Graphene Domains
雑誌のサイト
http://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/ja512897m


伊藤良一