次世代型革新高出力蓄電池
「金属触媒フリーリチウム空気電池」の開発

伊藤 良一
(東北大学 原子分子材料科学高等研究機構(AIMR) 助教、現在、筑波大学 数理物質系 准教授

2015年6月17日水曜日

論文紹介:太陽光を活用した高効率水蒸気発生

 今回、私が所属している東北大学東北大学原子分子材料科学高等研究機構 (AIMR)の融合研究グラフェンチームを中心として研究を行っていた多孔質グラフェンを用いて太陽光を吸収して高効率に水蒸気を発生させられる多孔質炭素材料の開発に成功しました。
 太陽光は無尽蔵に生み出される最もクリーンなエネルギー源として古くから活用されており、様々な分野で活用されています。近年、太陽光を直接電気エネルギーに変換する太陽電池の研究・実用化が精力的に進められています。しかしながら、この場合の太陽光エネルギーの利用効率(注1)は特殊な場合を除いて20~30%台であり、また、太陽光発電には多額の設備費・維持費がかかり、現段階では太陽光を有効に活用しているとは言い難い状況です。一方、太陽熱温水器やヒートポンプ等の太陽光を熱エネルギーとして活用する方法や太陽光を集光することで媒体を高温に加熱して発電に使用する太陽熱発電する方法があります。特に、太陽熱温水器はほぼ吸収した太陽光エネルギーをほぼ100%熱エネルギーに変換できることから、電気エネルギーを生み出す太陽電池と比べて用途は狭いですが、太陽光を熱に変換することでお風呂の湯沸しなどに使用する電気エネルギーを間接的に減らすことが可能となります。このように太陽熱利用は身近で手軽かつ非常に高効率太陽光利用の選択肢の一つとなりえます。
 本研究は、3次元多孔質グラフェンを太陽熱温水器の集光材料に使用することで、太陽光の熱エネルギーを効率よく吸収し、さらにその熱エネルギーが局所的に集中することで、水を一気に加熱し水蒸気を発生させることに成功しました。太陽光で加熱された水は比重差による対流現象や熱伝導によって熱が拡散するため、温度が均一化に向う結果、熱水は保持されません。しかし、本研究に用いた3次元構造を有する多孔質グラフェンでは、そのミクロサイズの孔内に捕らわれた水が熱が拡散することなく集中的に加熱されて容易に高温化できることから、水蒸気への変換効率を従来の56%(グラファイト粉を用いた材料)から80%に高めることに成功しました。




図.ナノ多孔質グラフェンの模型とその水蒸気発生。
(a)太陽光を吸収して局所加熱された水が水蒸気となり放出される概念図。
(b)実際に使われているナノ多孔質グラフェンの実物写真。
(c)ナノ多孔質グラフェンの表面のSEM像。
(d)ナノ多孔質グラフェンの側面のSEM像。
(e)実際に集光した太陽光を用いて発生した水蒸気の写真。

 3次元多孔質グラフェンを用いた本研究成果は、太陽光エネルギーを水蒸気発生のための熱エネルギーに高効率変換する手軽で、かつ、コストあたりの得られるエネルギー(cost-effective)な方法を提供できる可能性が示されました。環境負荷が高い従来の金属性集光機を使用せず、また定積モル比熱が一番低い炭素を使うことで環境負荷を軽減するだけでなく、集光機自体を加熱するための熱量も小さいことから熱の無駄を小さくできる可能性があります。

 本研究が理想的に完成した場合は、本材料と無尽蔵にある太陽光を用いて「水の浄化」に使うことが可能になると期待されます。水の浄化が必要とされている例として、下水の純水と汚泥の分離があります。近年の地方都市発展に伴う下水処理場能力超過とそれに伴う環境負荷が問題になりつつあり、下水処理場を増やすのではなく現在ある処理場の処理能力を向上させて対応することが一つの解決策になるのではないかと考えられます。通常、汚泥を分離するには膨大な下水を大きな貯水池に何日も貯めておくことが必要とされます。そこで、貯水池に下水を貯めている間に本材料と太陽光を用いて下水を効率よく蒸発させられれば、純水と汚泥の分離を促進でき、かつ、下水が処理に必要な分量の減少(濃縮)と同時に純水(工業用水)も確保できると私は考えています。また、下水処理施設が「河川を汚染しない程度の下水処理を施す施設から、下水から純水を生成できる施設」に変わり、下水処理施設の存在意義そのものが大きく転換されるかもしれません。このような身近でかつ経済活動に密接に繋がっている水の浄化技術は、地方都市の下水処理場不足と工業用水不足解消への同時貢献ができるのではないかと夢が膨らみます。  今後は、太陽光利用拡大を目指してナノ多孔質グラフェンの大量生産の手法開発が可能な企業と連携して水の浄化について模索したいと考えています。

プレスリリース(国立研究開発法人科学技術振興機構、JST)
http://www.jst.go.jp/pr/announce/20150617/index.html
論文は・・・残念ながら有料公開です。

タイトル
Multi-functional nanoporous graphene for high-efficiency steam generation by heat localization (多機能化されたナノ多孔質グラフェンを用いて局所加熱手法を利用した高効率水蒸気発生)

用語説明 (注1)エネルギー利用効率
太陽光が持つエネルギーがどれくらい電気エネルギーや水蒸気発生エネルギーに変換されたかを示す効率。例えば、太陽電池は20%のエネルギー効率なので残り80%は使用されていない。

伊藤良一

1 件のコメント:

  1. 伊藤先生
    研究内容が、「水の浄化技術」への貢献という具体的な目標に直接つながるかも知れないという可能性は素晴らしいですね。企業との連携が順調に進む事を祈ります。

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