次世代型革新高出力蓄電池
「金属触媒フリーリチウム空気電池」の開発

伊藤 良一
(東北大学 原子分子材料科学高等研究機構(AIMR) 助教、現在、筑波大学 数理物質系 准教授

2015年5月16日土曜日

研究紹介:3次元構造を持つナノ多孔質グラフェン

研究紹介:3次元構造を持つナノ多孔質グラフェン

 グラフェンはよく電気を通す2次元シート材料として電気デバイス、蓄電デバイス、光/イオンセンサー、触媒などの分野で研究が盛んに行われており、安価 で化学耐性、耐熱性、機械耐性が強いため、シリコンや貴金属の代替品として有望視されている材料です。現状では、液晶ディスプレイや電極材料として一部実 用化されていますが、なかなか実用化まで至っていないのが現状です。その理由として作製コストが高い(=需要が少ない)という事情があります。では、何故これほど盛んに研究されているにも関わらず、需要が伸びないのかは様々な理由が考えられます。その一つの理由として、グラフェンが2次元シートであることが挙げられます。グラフェンは様々な優れた性能を持ちますが、炭素1個分の厚さを持つグラフェン1枚では実用的な性能を出すことは出来ません。したがって、何百枚も何千枚もグラフェンを使って実用に耐えられるレベルが出るまで性能を「加算」させなければなりません。しかし、乾電池などと違ってグラフェンの場合、1枚+1枚が2枚分の性能になるとは限りません。つまり、積層または集合化した場合、予期せぬ電気的ショートによる電気回路制御の困難さ、また、重なっているグラフェンの内部に分子やイオンが入り込めず化学反応が必要となる製品(電気デバイス、蓄電デバイス、触媒など)には不向きになってしまうからです。このような背景から、グラフェンは2次元シートであるため応用用途に制限が出来てしまい、性能値/重さは優れているが体積換算した性能値(性能値/体積、もしくは、性 能値/重さのどちらかが性能を決める指標)が他の(炭素)材料よりも劣っているという問題があります。このため、世界中の科学者が2次元シートであるグラフェンに何とかして3 次元構造を持たせようと様々な試みがされています。



 私の所属している東北大学WPI-AIMR研究所にある融合研究グラフェンチームでは、世界に先駆けて3次元構造を持ったグラフェンの開発に成功しました。化学気相蒸着法を用いて図1(a)のナノ多孔質ニッケルの表面にグラフェンを成長させることによって、ナノ多孔質ニッケルの幾何学構造を維持した図1(b)3次元ナノ多孔質グラフェンを作成しました。このナノ細孔をもつナノ多孔質グラフェンは2次元グラフェンが持つディラックコーン型電子状態密度を維持していることが明らかとなりました。このような孔が無数に空いている状態では化学反応が促進され、グラフェン実用化に向けて障害であった体積あたりの性能を飛躍的に向上させられる可能性が示唆されました。このナノ多孔質グラフェンは水素ステーションでのその場水素を発生させたり燃料電池車の電極に応用できると期待されています。


図1. ナノ多孔質ニッケル上に成長した3次元ナノ多孔質グラフェン(左)とニッケルを溶かした後の3次元ナノ多孔質ナノ多孔質グラフェン単体(右)
<論文紹介> http://www.wiley.co.jp/blog/pse/?p=27494


本助成金ではこの3次元ナノ多孔質グラフェンの量産化研究については行えませんが、製品化に向けて量産化をしたいと考えており量産化ができる企業を探している最中です。

用語説明
・化学気相蒸着法 目的物質の前駆体を含んだガスを高温で加熱しながら流すことにより、化学的に薄膜する手法である。熱分解された分子は基盤表面上で化学反応を起こし、その反応によって1層から数層の膜を作成することが出来る。

・ディラックコーン型 ディラックコーンとは、理想的な2次元物質であるグラフェンの特異な電子状態を示す用語である。その電子状態は電子の運動量とエネルギーが線形の関係を持ち、円錐型バンド構造を持っている。