次世代型革新高出力蓄電池
「金属触媒フリーリチウム空気電池」の開発

伊藤 良一
(東北大学 原子分子材料科学高等研究機構(AIMR) 助教、現在、筑波大学 数理物質系 准教授

2021年10月31日日曜日

ENEOS中央研究所見学

ブルネイからの国費留学生(博士課程後期)Aimi Asilah Haji Tajuddinさんと一緒にENEOS中央研究所先進技術研水素キャリア部門に訪問し、水電解研究に関する共同研究打ち合わせを行ってきました。大学とは規模感が異なり、大きい器具や装置がありました(お見せできませんが)。石油プラントの近くに研究所があったので記念に写真を撮らせていただきました。ブルネイとENEOSは水素サプライチェーンで関係があり、水素事業で重要な役割を果たすようで今後も研究を続けていきます。

(本訪問、ワクチン接種後です)


伊藤良一

2021年8月18日水曜日

二酸化炭素吸収材で表面を被覆したスズ電極により ギ酸合成速度を24倍に高速化

カーボンニュートラルの社会を目指した電気化学的二酸化炭素還元の研究のプレスリリースを行いました。
2021/08/18の日経産業新聞に記事として取り上げられています。


内容
カーボンニュートラル実現に向けて、再生可能エネルギーを用いて電気化学的にCO2を還元し、メタン、メタノール、ギ酸などの有用な化成品を合成する化学的固定化技術の開発が急務となっています。そのための電極としてさまざまな材料が開発されていますが、いずれも、合成速度を高めようとすると、目的以外の副成物も合成されてしまう(生成物の選択性が低い)という問題がありました。本研究では、従来の二酸化炭素の電気化学的還元研究を見直し、目的生成物の合成速度と選択性を両立する手法を世界で初めて確立しました。

プレスリリース本文はこちら

原著論文
Polyethylene Glycol Covered Sn Catalysts Accelerate the Formation Rate of Formate by Carbon Dioxide Reduction


伊藤良一

2021年7月14日水曜日

数学者と実験科学者との共同研究

数学者である東北大学小谷元子教授らと数学を用いた材料開発に関する論文を発表しました。数学といえば、現実の現象を表現するのに向いていないようなイメージがあるかもしれません。しかし、数学は複雑な現象を本質を捕らえることに秀でており、これまでその本質を材料設計に結びつける手段がなかっただけ、といえます。本研究では、数学用語のである「曲率」に着目し、曲率がいかに材料の特性に影響を与え、材料設計に有効であるかを数学的、物理的、実験科学的に証明をしました。また、数学を用いた材料設計の指針も明らかとしました。詳細はプレスリリースを参照ください。
数学者との共同研究は、人生で初めてあり、数学者は全く異なる視点で研究をしており、非常に勉強になる経験でした。

参考
数学を取り入れたシミュレーションで材料設計を加速
原著論文(オープンアクセス)
Geometric model of 3D curved graphene with chemical dopants


伊藤良一

2021年4月22日木曜日

新しい実験室

新学期が始まり新しい実験部屋を頂きました。大変ありがたいことに今の実験室の向かいという最高のロケーションです。退官された先生の部屋を引き継いで新しい実験室を立ち上げることが多いため、部屋が飛び地になることが多いのですが、幸運にも真向い、徒歩10秒です。更なる研究発展と学生教育に向けて大切に使わせていただきます。



伊藤良一

2021年4月13日火曜日

化学 2021年5月号 解説記事掲載

【解説】グラフェンを被膜した卑金属電極──白金代替電極へ向けた防食と触媒作用の両立 ●伊藤良一
という解説記事が雑誌「化学」で紹介されました。

化学 2021年5月号
https://www.kagakudojin.co.jp/book/b577800.html


伊藤良一

2021年3月16日火曜日

スズとグラフェンの界面を利用した二酸化炭素を高効率に還元する新しい触媒を開発の補足

プレスリリース「スズとグラフェンの界面を利用した二酸化炭素を高効率に還元する新しい触媒を開発」では書ききれなかった細かい技術的点を掲載しておきます。我々のグループは基礎研究を目的としていて、成果の共有が大切を思っています。我々の成果をご自身の研究にフィードバックするときは以下の点をご一考ください。
朝日新聞「CO2を燃料電池材料に 新技術を開発、金沢大など」にも掲載されていた内容の補足にもなります。

①触媒とCO2吸着担体と物理的にぐるぐる攪拌した程度では効果が出ません
錫ナノ粒子と酸化グラフェンフレークをアルゴン雰囲気下でシンタリングして作製しています。別々に用意した錫ナノ粒子と酸化還元グラフェンフレークを物理的に混ぜてシンタリングした試料と比較したところ、物理的に混ぜた触媒は性能が出ませんでした。物理的に混ぜているため、ナノ粒子が担体にがっちりとくっついていないことが原因である可能性が高いと思われます。担体からCO2分子が移動してくるには触媒がしっかりと担体に固定されている必要があります。

②担体として酸化還元グラフェンはお勧めしません
今回の論文はメカニズムの実証を目的とし、実験室規模で「作りやすさ」と「測定しやすさ」を重視した組み合わせです。いろいろ検討した結果、酸化還元グラフェンは電解合成に耐え切れず、自身を分解していくことがわかりました。分解した物質は不純物となり、ギ酸の純度やファラデー効率を下げました。化学的に安定な担体の探索が必要です。高温で駆動させることを考えると耐熱性も必要となります。検証していませんがCO2吸着力が強く電気さえ通れば有機物である必要性はないと考えています。

③ギ酸、メタノールなどの定量評価は核磁気共鳴(NMR)法で (研究者向け)
NMRとガスクロマトグラフィー(GC)法ではNMRのほうが精確よいとされ、アメリカ系やヨーロッパ系学会ではNMRが推奨されているようです

④3極式測定をする場合、対極は金電極 (研究者向け)
白金電極が一般的に対極として使用されていますが、白金は溶出するので適切でないと判断される場合が多くなってきました。また、グラファイト棒を代替として使う場合もありますが、グラファイトにギ酸が吸収されてファラデー効率が下がりました。金電極が今のところ適切とされています。


伊藤良一

2021年3月4日木曜日

ゼロエミッションに向けた二酸化炭素を電解還元する触媒の論文

金沢大学と大阪大学との共同研究で二酸化炭素を電気化学的に還元する触媒を開発し、その触媒メカニズムの解明を行った論文を発表しました。今回の論文は、二酸化炭素を電気化学的に還元してギ酸を合成するプロセスによく使われる錫触媒に注目しました。錫触媒は自身の触媒性能を向上させるために微粒子化したり銅などと合金化する研究が多く行われています。本研究では触媒そのものではなく触媒を乗せる担体に着目しました。担体は二酸化炭素を吸着しやすいものを選択し、担体から触媒表面へ連続的に二酸化炭素を供給し続けたときの触媒メカニズムがどうなるかの検討を行いました。また、その触媒メカニズムを走行型電気化学顕微鏡を用いて直接明らかにしました。2050年のゼロエミッションに向けて二酸化炭素の排出量削減手法が様々に検討されていますが、本研究は従来の触媒に担体を導入することで触媒反応効率を向上させられる基礎的な知見を見つけた画期的な成果と言えます。

プレスリリース
スズとグラフェンの界面を利用した二酸化炭素を高効率に還元する新しい触媒を開発~二酸化炭素からの化成品合成技術の加速へ~

論文
Acceleration of Electrochemical CO2 Reduction to Formate at the Sn/Reduced Graphene Oxide Interface


伊藤良一

2021年1月9日土曜日

Nature Communications誌で論文発表

胡凱龍君の博士論文の一部の研究がNature Communications誌に掲載されました。1年半以上の時間をかけて丁寧に実験し10か月間の査読にもめげずに最後まで頑張ってくれました。とても良い出来になっています。誰でも読めるオープンアクセスなのでプレスリリースと合わせて是非読んでみてください。また、本研究はJSTさきがけとトヨタモビリティ基金、科研費新学術領域など様々な機関から研究支援を頂いて完遂することができました。期待に応えるべく今後も水素社会に向けた基礎研究を継続していきたいと思います。

プレスリリース
グラフェンで被膜した卑金属電極が防食と触媒作用を両立するメカニズムを解明
論文
Catalytic activity of graphene-covered non-noble metals governed by proton penetration in electrochemical hydrogen evolution reaction


伊藤良一