今回、東北大学東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)で研究を進めている3次元ナノ多孔質グラフェンにポリピロール(導電性ポリマー)を担持したスーパーキャパシタの開発に成功しました。今回の論文は私が指導を担当している学生のうちの一人で博士学生2年生の論文です。
私はスーパーキャパシタは専門外なのでNEC/TOKINの説明を引用すると、「電気二重層コンデンサ(スーパーキャパシタ)は数十ミリファラッド以上の非常に大きな静電容量を有し、充放電サイクル特性、急速充放電に優れ、また、広い温度範囲、環境に優しいという特徴をもつ蓄電デバイスです。主な用途としては、RTC、メモリー等のバックアップ用途やモーター起動時の電力のアシスト、供給用電源等があります。使用される機器はAV機器等のコンシューマ機器、プリンタ等のOA機器、カーオーディオ等の車載機器等、非常に幅広い分野で多岐にわたっています。」と説明をされています。
つまり、
電池・・・化学反応を通して化合物から電気の出し入れを行う
キャパシタ・・・コンデンサに電気を電荷として溜める
となります。
ここで大事なポイントは電気を電荷として溜めるためには物質の表面に多くの電荷を溜められる(帯電)ような表面積の大きい材料が必要ということです。そして、製品化を考える上でその材料は大きな表面積を有していることを前提で限りなく軽くなければいけません。重いということは製品化にとってかなりの懸念事項となります。現在市販されているスーパーキャパシタは軽くて表面積の大きい粉末状態の炭素系多孔質材料やそれら炭素多孔質材料に導電性ポリマーを混ぜてを用いていることが多く、粉末形状のため全体に電気が十分に伝わらず材料本来の性能を十分に発揮できないといった問題点がありました。今回、我々の研究グループでは導電性が優れ1枚に繋がった多孔質グラフェンを用いることで、グラフェン(担体)上で電子をスムーズに移動させてポリピロール(導電性ポリマー)の性能を最大限発揮させることに成功しました。これにより市販のスーパーキャパシタの10倍の出力密度を達成しました。今回の成果は導電性の優れた多孔質グラフェンに導電性ポリマーを担持すると担持したポリマーの性能が損なわれることなく発揮されることを示した論文であり、今後のポリマー担持スーパーキャパシタの開発の指針になることが期待されます。
図(左)グラフェンの表面にポリピロールを担持した状態を観察した電子顕微鏡像。(右)本研究の性能値。
論文は・・・残念ながら有料公開です。
タイトル
Bicontinuous nanotubular graphene–polypyrrole hybrid for high performance flexible supercapacitors
伊藤良一
追伸
現在の最高性能や最新研究動向など調べながら書きましたが間違いがあったら教えてください。
次世代型革新高出力蓄電池
「金属触媒フリーリチウム空気電池」の開発
伊藤 良一
(東北大学 原子分子材料科学高等研究機構(AIMR) 助教、現在、筑波大学 数理物質系 准教授)
「金属触媒フリーリチウム空気電池」の開発
伊藤 良一
(東北大学 原子分子材料科学高等研究機構(AIMR) 助教、現在、筑波大学 数理物質系 准教授)
2015年12月30日水曜日
2015年12月1日火曜日
論文紹介:金属触媒を使用しないリチウム空気電池
今回、私が所属している東北大学東北大学原子分子材料科学高等研究機構 (AIMR)で開発しているナノ多孔質グラフェンを用いることで金属触媒を使用しないリチウム空気電池の反応機構について明らかにしました。
排ガスが出ない電池は次世代自動車である電気自動車に搭載されるクリーンな動力源として期待されています。しかし、現在最も普及しているリチウムイオン電池では1回の充電で電気自動車を200km程度しか走行させることが出来ず、ガソリン車並の走行距離を出せないことが問題視されていました。その解決法の一つとして、リチウムイオン電池よりも電気容量が5-8倍といわれているリチウム空気電池が注目されています。リチウム空気電池はエネルギー密度の高いリチウム金属(危険ですが・・・)を負極として、また、正極活物質を空気にすることで少ない体積で大きな電気容量を持たせることが可能です。技術的な問題点が山積していますが、現在このような次世代蓄電池を用いて1回の充電で自動車を500-600km走行させることができる次世代大容量蓄電池の開発競争が進んでいます。
本研究グループは自動車会社などが行っている応用研究・商品開発ではなく、反応機構などを追及する基礎研究を行うことで新しい知見を社会に還元することを目指しています。本研究はこのような理念の元で国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)によるエネルギー高効率利用のための相界面科学CRESTの全面支援を受け、今回、窒素原子と硫黄原子を化学ドープした3次元多孔質グラフェンによる金属触媒が不要なリチウム空気電池の開発指針を示すことに成功しました。
研究内容を簡単に説明すると、電極の単位重量あたり2000mAhの大きな電気エネルギーを持ち、かつ100回以上の繰返し充放電が可能なリチウム空気電池の開発に成功しました。現時点では1次電池としては優秀であることがわかりましたが、2次電池としてみた場合、充電時の過電圧が大きすぎて商品化には全く不向きです。しかし、実験結果を電気自動車の走行距離に換算すると充電1回あたりで500~600kmの走行に相当する結果が得られました。本研究は金属触媒を用いない環境に優しい電池の構築に役立つと期待されています。
図 (a)窒素ドープナノ多孔質グラフェン1000mAhg-1でカットオフ(b)窒素ドープナノ多孔質グラフェン2000mAhg-1でカットオフ(c)硫黄ドープナノ多孔質グラフェン1000mAhg-1でカットオフ(d)硫黄ドープナノ多孔質グラフェン2000mAhg-1でカットオフ(e)各ドープグラフェンのサイクル数(f)各ドープグラフェンの充放電過電圧の値の変化.
論文は・・・残念ながら有料公開です。
タイトル
Effect of Chemical Doping on Cathodic Performance of Bicontinuous Nanoporous Graphene for Li-O2 Batteries
伊藤良一
排ガスが出ない電池は次世代自動車である電気自動車に搭載されるクリーンな動力源として期待されています。しかし、現在最も普及しているリチウムイオン電池では1回の充電で電気自動車を200km程度しか走行させることが出来ず、ガソリン車並の走行距離を出せないことが問題視されていました。その解決法の一つとして、リチウムイオン電池よりも電気容量が5-8倍といわれているリチウム空気電池が注目されています。リチウム空気電池はエネルギー密度の高いリチウム金属(危険ですが・・・)を負極として、また、正極活物質を空気にすることで少ない体積で大きな電気容量を持たせることが可能です。技術的な問題点が山積していますが、現在このような次世代蓄電池を用いて1回の充電で自動車を500-600km走行させることができる次世代大容量蓄電池の開発競争が進んでいます。
本研究グループは自動車会社などが行っている応用研究・商品開発ではなく、反応機構などを追及する基礎研究を行うことで新しい知見を社会に還元することを目指しています。本研究はこのような理念の元で国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)によるエネルギー高効率利用のための相界面科学CRESTの全面支援を受け、今回、窒素原子と硫黄原子を化学ドープした3次元多孔質グラフェンによる金属触媒が不要なリチウム空気電池の開発指針を示すことに成功しました。
研究内容を簡単に説明すると、電極の単位重量あたり2000mAhの大きな電気エネルギーを持ち、かつ100回以上の繰返し充放電が可能なリチウム空気電池の開発に成功しました。現時点では1次電池としては優秀であることがわかりましたが、2次電池としてみた場合、充電時の過電圧が大きすぎて商品化には全く不向きです。しかし、実験結果を電気自動車の走行距離に換算すると充電1回あたりで500~600kmの走行に相当する結果が得られました。本研究は金属触媒を用いない環境に優しい電池の構築に役立つと期待されています。
図 (a)窒素ドープナノ多孔質グラフェン1000mAhg-1でカットオフ(b)窒素ドープナノ多孔質グラフェン2000mAhg-1でカットオフ(c)硫黄ドープナノ多孔質グラフェン1000mAhg-1でカットオフ(d)硫黄ドープナノ多孔質グラフェン2000mAhg-1でカットオフ(e)各ドープグラフェンのサイクル数(f)各ドープグラフェンの充放電過電圧の値の変化.
論文は・・・残念ながら有料公開です。
タイトル
Effect of Chemical Doping on Cathodic Performance of Bicontinuous Nanoporous Graphene for Li-O2 Batteries
伊藤良一