非金属系触媒である炭素材料(化学ドープグラフェン)に関するJSTさきがけ「エネルギーキャリア」と新学術「次世代物質探索のための離散幾何学」の成果がAdvanced Science誌に掲載されました。炭素材料は白金に代わる触媒になると理論的に言われていますが、その触媒機構は不明瞭で特にどのような原子構造を持つとき触媒能力が向上するかわからない状態でした。その原因の一つに、構造情報は電子顕微鏡などを用いることで詳しく調べることが可能ですが、電気化学測定などによる触媒能力は試料全体を平均化した情報でしか得ることができないため、構造と触媒能力の空間的対応ができないことが一因であるとされていました。そこで、今回、その場構造解析とその場電気化学測定を組み合わせることで窒素などの化学元素がグラフェンのエッジ構造にドープされたとき、エッジ構造が持つ触媒能力はエッジ構造ではない場所の触媒能力と較べて100倍以上増大することが明らかとなりました。これら一連の実験により、炭素系触媒の幾何学構造情報と電気化学性能をナノスケールで対応づけることに成功し、世界で初めてグラフェンのエッジ構造が高い触媒能力を示すことを直接実証しました。
水素発生触媒に関してはJSTさきがけの3年半の研究の終着点であり、炭素触媒の設計指針を明確に示せました。また、そこに離散数学から導かれるグラフェン構造の幾何学的不安定性の解消という数学的な視点を加えることで異元素がグラフェンの格子のどこに取り込まれやすいかを数学的に予測し、実際にエッジ構造に選択的に異元素が取り込まれ取り込まれた異元素が触媒能力を発揮することをさきがけ研究と協同して突き止めました。複数の学問体系を繋いだ学際的論文となり、まとめるのに非常に苦労しましたがとても良い論文に仕上がったと思います。
詳しい内容についてはプレスリリースをご覧ください。
プレスリリースタイトル:グラフェン構造を数学的観点から設計し、その優位性を電気化学イメージングにより初めて実証
論文はオープンアクセスなので無料でこちらから閲覧可能となっています。
Title: Chemical Dopants on Edge of Holey Graphene Accelerate Electrochemical Hydrogen Evolution Reaction
伊藤良一