次世代型革新高出力蓄電池
「金属触媒フリーリチウム空気電池」の開発

伊藤 良一
(東北大学 原子分子材料科学高等研究機構(AIMR) 助教、現在、筑波大学 数理物質系 准教授

2022年11月1日火曜日

プレスリリース:卑金属のみを用いた固体高分子型水電解用酸素発生電極の開発

不働態化しやすい卑金属と触媒能力が高い卑金属を合金化することで、硫酸中で溶解しにくい卑金属電極の発見とメカニズムの解明についての論文を発表しました。

本研究チームは、多元合金の研究開始にあたり、組成、元素種類、元素の組み合わせがほぼ無限に存在している状況下で、いかに少ない労力と予算で目的に合致した卑金属合金を見つけ出すことができないか、という観点で多元合金の選定方法を検討しました。まず、図1(a)のように、従来の一般的な合金探索アプローチについて再考察します。従来アプローチは、第一原理で元素候補を推定し、性能を評価しながら元素数の増加を図る方式です。つまり、水電解におけるボトムアップアプローチは、1個ずつ元素を追加した後水電解性能を計測し、元素を追加するか交換するかなどの方法で合金性能向上を試みます。当然ながらうまくいかない元素の組み合わせが存在するため、試行錯誤が必要となり作製プロセスの最適化に膨大な労力と時間がかかります。これはつまり、積み木のように元素を積み上げて、一歩一歩着実に合金性能の向上を目指すボトムアップ方式といえます。この従来アプローチは3元合金程度であれば非常に有効ですが、使用元素を卑金属に限定しているとはいえ、5元素を超える多元合金に対して探索方針なしで闇雲に探索しても有益な成果が得られない可能性が高くなります。そこで、本提案のアプローチは、図1(b)のように、元素を入れられるだけ入れた多元合金を先に合成し、目的とする電気化学反応条件下であたかも合金が意思をもって最適構造を作り出す、いわゆる非平衡下での自己組織化を取り入れる方式 です。つまり、本トップダウンアプローチは、水電解の実験条件を模した電解液に電極を含侵させ、不要な元素を自己選択して取り除いてもらうことで水電解条件における最適な元素が「勝手に生き残る」と考えます。そして生き残った者の中から、触媒として機能を発揮する組み合わせを採用します。このようにすれば、作製プロセスに係る最適化の労力を最小化でき、元素選択と特性評価に注力できるようになります。これはつまり、ジェンガのように、合成した多元合金から不要な元素を抜いて合金性能の向上を目指すトップダウン方式といえます。本研究では、新提唱のコンセプトが正しいかどうかも含めて、実験と理論を両輪として高性能触媒開発と詳細な検証を行いました。
詳細はプレスリリースまたは論文で詳しく述べています。ご覧ください。



図1. ほぼ無限の元素の組み合わせが存在する高エントロピーな合金の探索方法.
(a)従来の合金探索法であるボトムアップアプローチ。3元合金に1元素を加え、4元合金を作製し、特性評価した後、更に1元素を加えて5元合金を作製するというステップアップ方式。
(b)本提案の合金探索法であるトップダウンアプローチ。先に9元合金を作製し、目的としている実験条件下で不要な元素を自己選択し、特定の触媒反応条件下で表面構造を自己再構成(OH/O種が内部へ入り込み、CoとNiが表面へ偏析)してもらう自己選択・自己再構成方式。黒い球はOH/O種。必要な元素の自己選択時の表面構造は、図1(a)の不働態化しやすい4元合金とほぼ同一。


プレスリリース
卑金属のみを用いた固体高分子型水電解用酸素発生電極の開発

原著論文
Corrosion-resistant and high-entropic non-noble-metal electrodes for oxygen evolution in acidic media


伊藤良一