次世代型革新高出力蓄電池
「金属触媒フリーリチウム空気電池」の開発

伊藤 良一
(東北大学 原子分子材料科学高等研究機構(AIMR) 助教、現在、筑波大学 数理物質系 准教授

2015年12月1日火曜日

論文紹介:金属触媒を使用しないリチウム空気電池

 今回、私が所属している東北大学東北大学原子分子材料科学高等研究機構 (AIMR)で開発しているナノ多孔質グラフェンを用いることで金属触媒を使用しないリチウム空気電池の反応機構について明らかにしました。
 排ガスが出ない電池は次世代自動車である電気自動車に搭載されるクリーンな動力源として期待されています。しかし、現在最も普及しているリチウムイオン電池では1回の充電で電気自動車を200km程度しか走行させることが出来ず、ガソリン車並の走行距離を出せないことが問題視されていました。その解決法の一つとして、リチウムイオン電池よりも電気容量が5-8倍といわれているリチウム空気電池が注目されています。リチウム空気電池はエネルギー密度の高いリチウム金属(危険ですが・・・)を負極として、また、正極活物質を空気にすることで少ない体積で大きな電気容量を持たせることが可能です。技術的な問題点が山積していますが、現在このような次世代蓄電池を用いて1回の充電で自動車を500-600km走行させることができる次世代大容量蓄電池の開発競争が進んでいます。
 本研究グループは自動車会社などが行っている応用研究・商品開発ではなく、反応機構などを追及する基礎研究を行うことで新しい知見を社会に還元することを目指しています。本研究はこのような理念の元で国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)によるエネルギー高効率利用のための相界面科学CRESTの全面支援を受け、今回、窒素原子と硫黄原子を化学ドープした3次元多孔質グラフェンによる金属触媒が不要なリチウム空気電池の開発指針を示すことに成功しました。
 研究内容を簡単に説明すると、電極の単位重量あたり2000mAhの大きな電気エネルギーを持ち、かつ100回以上の繰返し充放電が可能なリチウム空気電池の開発に成功しました。現時点では1次電池としては優秀であることがわかりましたが、2次電池としてみた場合、充電時の過電圧が大きすぎて商品化には全く不向きです。しかし、実験結果を電気自動車の走行距離に換算すると充電1回あたりで500~600kmの走行に相当する結果が得られました。本研究は金属触媒を用いない環境に優しい電池の構築に役立つと期待されています。


図 (a)窒素ドープナノ多孔質グラフェン1000mAhg-1でカットオフ(b)窒素ドープナノ多孔質グラフェン2000mAhg-1でカットオフ(c)硫黄ドープナノ多孔質グラフェン1000mAhg-1でカットオフ(d)硫黄ドープナノ多孔質グラフェン2000mAhg-1でカットオフ(e)各ドープグラフェンのサイクル数(f)各ドープグラフェンの充放電過電圧の値の変化.


論文は・・・残念ながら有料公開です。
タイトル
Effect of Chemical Doping on Cathodic Performance of Bicontinuous Nanoporous Graphene for Li-O2 Batteries


伊藤良一