次世代型革新高出力蓄電池
「金属触媒フリーリチウム空気電池」の開発

伊藤 良一
(東北大学 原子分子材料科学高等研究機構(AIMR) 助教、現在、筑波大学 数理物質系 准教授

2021年3月16日火曜日

スズとグラフェンの界面を利用した二酸化炭素を高効率に還元する新しい触媒を開発の補足

プレスリリース「スズとグラフェンの界面を利用した二酸化炭素を高効率に還元する新しい触媒を開発」では書ききれなかった細かい技術的点を掲載しておきます。我々のグループは基礎研究を目的としていて、成果の共有が大切を思っています。我々の成果をご自身の研究にフィードバックするときは以下の点をご一考ください。
朝日新聞「CO2を燃料電池材料に 新技術を開発、金沢大など」にも掲載されていた内容の補足にもなります。

①触媒とCO2吸着担体と物理的にぐるぐる攪拌した程度では効果が出ません
錫ナノ粒子と酸化グラフェンフレークをアルゴン雰囲気下でシンタリングして作製しています。別々に用意した錫ナノ粒子と酸化還元グラフェンフレークを物理的に混ぜてシンタリングした試料と比較したところ、物理的に混ぜた触媒は性能が出ませんでした。物理的に混ぜているため、ナノ粒子が担体にがっちりとくっついていないことが原因である可能性が高いと思われます。担体からCO2分子が移動してくるには触媒がしっかりと担体に固定されている必要があります。

②担体として酸化還元グラフェンはお勧めしません
今回の論文はメカニズムの実証を目的とし、実験室規模で「作りやすさ」と「測定しやすさ」を重視した組み合わせです。いろいろ検討した結果、酸化還元グラフェンは電解合成に耐え切れず、自身を分解していくことがわかりました。分解した物質は不純物となり、ギ酸の純度やファラデー効率を下げました。化学的に安定な担体の探索が必要です。高温で駆動させることを考えると耐熱性も必要となります。検証していませんがCO2吸着力が強く電気さえ通れば有機物である必要性はないと考えています。

③ギ酸、メタノールなどの定量評価は核磁気共鳴(NMR)法で (研究者向け)
NMRとガスクロマトグラフィー(GC)法ではNMRのほうが精確よいとされ、アメリカ系やヨーロッパ系学会ではNMRが推奨されているようです

④3極式測定をする場合、対極は金電極 (研究者向け)
白金電極が一般的に対極として使用されていますが、白金は溶出するので適切でないと判断される場合が多くなってきました。また、グラファイト棒を代替として使う場合もありますが、グラファイトにギ酸が吸収されてファラデー効率が下がりました。金電極が今のところ適切とされています。


伊藤良一